バイエルはもう時代遅れ?子供の『導入教材』としてあまり使われなくなった理由
お子様がピアノを始める際、これからどんな教本でレッスンしていくのか…
保護者の方にとって、とても関心のある内容だと思います。
私が子供の頃、昭和の時代は、必ず「バイエル」からスタートしたものです。
若いお母さま方の中にも、「バイエル」を弾いた経験のある方がたくさんいらっしゃいます。
お子様が初めてレッスンを始める際、お母さま方と昔の教材のお話をすることがあります。
「昔はバイエルしか無かった… 曲にはタイトルはなく番号だけ。曲想も単調でつまらなくって…。
自分の子供には、もっとピアノ(音楽)を楽しめるようになってほしい!」
そうおっしゃる方、とても多いです。
今、楽器店の楽譜売り場に行くと、ピアノ初心者のための『導入教材』が所狭しと並べられています。
国内外の様々な『導入教材』が出版され、どれをチョイスするか迷ってしまうほどです。
特に、小さなお子様向けの『導入教材』については、よく研究されたメソッドがたくさん紹介され、その使用方法を解説する「指導者向けのセミナー」も全国各地で開催されています。
魅力的な教材が溢れている中、町のピアノ教室でも、お子様の(特に幼児の)『導入教材』に「バイエル」を使うことはとても少なくなりました。
最近の教材は、視覚的にも子供たちの興味を引くものが多く、また、小さなお子様の発達や心理をよく研究して作られています。
教本を進めていくうちに「私もこんな楽しい教材で習いたかった!」とおっしゃる保護者の方も多くいらっしゃいます。*バスティン「オールインワン2A」より
では、なぜ今、「バイエル」が子供の『導入教材』として選ばれなくなってきたのか、少し考えてみたいと思います。
全国のピアノ教室で使われている「ピアノ教本」ランキング!から
全国のピアノ教室で使われている「ピアノ教本」について、ピティナ(全日本ピアノ指導者協会)のデータによると、次のような順位になるそうです。
2位 バスティン
3位 バイエル
4位 オルガンピアノの本
5位 ぴあのどりーむ
6位 トンプソン
7位 ピアノランド
8位 メトードローズ
1位の「バーナム」には、「バーナムテクニック」と「バーナム教本」があります。
良く売れていると思われるのは「バーナムテクニック」の方で、こちらはテクニック教材で、他のメイン教材のサブとして使われることが多いので、実質、メイン教材として今、一番使われているのは2位の「バスティン」だと思われます。
そこで、今回、注目していただきたいのは、この3位の「バイエル」です。↓↓
一昔前は、ピアノ=バイエル と言われるくらい、町のピアノ教室では最も使われることが多い教本でした。
かくいう私も入門は「バイエル」でした。
「バイエル一強」の時代。他の教材などほとんど見たこともありませんでした。
研究熱心な先生で「メトードローズ」(フランスもの)などを取り入れている教室もあったようですが(のちに知りました)、少なくとも私の周り(高知市)にはそのような教室はありませんでした。
ところが、最近の楽譜売り場では、新しいメソッドで溢れ、「バイエル」のスペースはほんの少しになってしまいました。
とはいえ、「バイエル」は今でも一定数の売り上げはあるわけで…
一昔前のように、小さなお子様から一律「バイエル」ということはなくなりましたが、大人の方のレッスンには比較的使いやすいというお話もお聞きしますし、保育士や幼稚園教諭を目指す方には必須の教材となっています。
また、古典派への入り口として、伴奏型を徹底的に練習したい時には、とても良い曲があります。
“バイエル”は人の名前
ここで少し「バイエル」について。
フェルディナンド・バイエル(1803~1863)は、ドイツのピアニスト・作曲家。
教育者としても活躍し、彼が著した「ピアノ奏法入門」がいわゆる「バイエル教則本」を指します。
明治13年、今の東京芸大の前身の「音楽取調掛」に赴任してきた教師が持ち込んだのが、この「バイエル教則本」だと言われています。
その後、日本ではピアノ教本の定番中の定番として、親しまれてきました。
ところが、この「バイエル教則本」、海外ではほとんど使われていない(名前すら知られていない)そうですよ。
いろいろな「バイエル」
1冊にまとまっているものと、上巻下巻に分冊されているもの、さらにもっと細かく分冊になって販売されているものもあります。
分冊になっているものは、音符が大きく小さなお子様でも見やすいように工夫されています。
私も上巻下巻の、赤黄バイエルで育ちました。
<1冊にまとまっている(大人用・標準)バイエル>
下記の子供用バイエルと比べると、音符が小さいので、小さな子供には読みにくく、難しく感じてしまうかもしれません。
<片手から始まる「子供のバイエル上巻」>
「赤バイエル」と言われる上巻。1~43番。最近は、ディズニーやかわいいキャラクターが紹介するものも出版されています。
<両手で演奏し、後半は難易度も高くなる「子供のバイエル下巻」>
黄バイエルといわれる下巻。44~106番。
また、これ以外にも、もっと細かく数冊に渡り分冊になっているものもあります。
「バイエル」が子供の『導入教材』として、使いにくいと思われる問題点
「バイエル」が子供(特に幼児)の『導入教材』として使いにくいと感じる点を、いくつか挙げてみました。
1、最初は片手の練習ばかり
2、ト音記号で始まり、ヘ音記号がなかなか出てこない
3、曲にタイトルが無くイメージを膨らすことができない(番号だけ)
4、黒鍵を使用するにがとても遅い
5、Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ以外の和音が、出てこない。
6、近・現代の音楽のスタイルが出てこない。
7、短調の曲が少ない
…などなど
1、最近の教本では大譜表で(「ト音記号」と「ヘ音記号」を同時に)読ませることが多いので、最初から両手で均等に弾いていくことになります。
2、「バイエル」は、「ト音記号」で始まってその期間がとても長いので、その後いきなり出てきた「ヘ音記号」に戸惑ってしまいます。
昔バイエルで育った方で、ヘ音記号を読むのが苦手という方、多いですよね。
4、黒鍵を使用するのは、下巻の70番から。
♭や#が付くと楽譜を読むのが苦痛になる方の話もよく聞きます。
今「バイエル」は、レッスンでどのように使われているの??
子供の(特に幼児の)『導入教材』として「こどものバイエル」上巻をメインに使われる先生は、現在はとても少ないのではないでしょうか。正直、私も、小さなお子様(特に幼児)の導入教材としては使用していません。
ただ、「バイエル」下巻には、和音の進行・伴奏形を勉強するのに大変分かりやすい曲があります。
私は、全曲を弾かせることはありませんが、45番以降から抜粋で取り入れることはあります。ここをしっかり押さえておくと、その後のソナチネやソナタの導入としてスムーズに繋がっていくと思います。
個人的に、とても使いやすいなと感じているテキストがこちら。
教育芸術社から出版されている「こどものバイエル」です。
和音進行や伴奏形を、体系的に習得できるように作られています。
現在、バイエルをレッスンに取り入れられている先生も、他の教材とうまく併用する形で使われていることが多いのではないでしょうか。
「バイエル」は、幼稚園教諭・保育士を目指す方には必須です。
一方、保育士や幼稚園教諭を目指す方には、必須の教材となります。
保育士試験などでも「バイエル」が課題になりところがまだまだ多く、授業の教材として「バイエル」を使用する学校も多いからです。
また、大人の初心者の方のレッスンでも、比較的取り入れやすい教材なのではないでしょうか。
西久万ピアノ教室ではどんな教材を使っているの?<高知市・ピアノ教室>
高知市、西久万ピアノ教室では、バスティン・メソッドをメインとすることが多いのですが、生徒さんお一人お一人に合わせて、他のいろいろな曲を併用しています。
「バスティン・メソッド」は、読譜力・テクニック・表現力がしっかり身に付き、小さなお子様の発達や心理をよく研究して作られている素晴らしい教材で、教室の子供たちも大好きです。
*バスティン「オールインワン1B」より
編入生の方には、それまで使ってきた教本の良い所を生かしながら、生徒さんが混乱しないように、上手に柔軟に対応しています。
現在、西久万ピアノ教室では、「バイエル」をメイン教材としては使っていませんが、先ほどお話したように、下巻から抜粋をして「Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ」の機能和声の伴奏形の練習曲として取り入れることがあります。
幅広く音楽を学んでいけるように!<高知市・西久万ピアノ教室>
これだけやっておけば大丈夫という教材はないと思います。指導者は、対象となる生徒さんに合わせて最適な教材を選ぶ必要があります。
幼児期から、幅広く音楽を学んでいけるような環境を整えていきたいですね。
少し懐かしくなって、子供の時に使っていた「バイエル」のテキストをを久しぶりに開いてみました。
当時のピアノの先生からいただいた、昭和感溢れるご褒美シールがなんとも懐かしく、ほっこりした気持ちにさせてくれました。
耳慣れた心地良いメロディー、子供の時の記憶が蘇ってきて、温かい気持ちになりました。
優しかった先生との時間、週に一回グランドピアノが触れるのが嬉しくてたまらなかった子供の頃を思い出しました。
今、子どもの『導入教材』としての「バイエル」は、使いにくさばかりが目に付いてしまいますが、後半にはメロディーがとても美しい曲もあります。
私は「バイエル」が好きな子供だったのかもしれません(#^^#)